2. 治療アルゴリズム・クリニカルクエスチョンと推奨
2-1. 治療アルゴリズム
この診療ガイドラインでは、AAV の治療の流れをわかりやすくし、CQ 作成の際の資料とするため、次のような治療アルゴリズム(図2)を用いています〔Part 2 VIII「1。治療アルゴリズム」(p112)参照〕。
AAV では、診断、臓器障害・病態の評価の後に治療が開始されます。AAV の治療には「寛解導入治療」(病気になって最初の数か月で行う症状を軽減・消失させるための治療)と「寛解維持治療」(症状が軽減・消失した後に病気が再燃しないために行う治療)があります。さらに、薬剤の中止(可能であれば)、再燃した場合の再寛解導入というステージに分けられます。図2 の四角で囲まれた部分は、診療の現場において意見が分かれる、あるいは判断に迷う部分であり、重要臨床課題およびCQ の候補となります。
今回は、「寛解導入治療」「補助療法(血漿交換)」「寛解維持治療」が重要臨床課題として選ばれ、CQ が作成されました。
図2. 治療アルゴリズム
*:腎、肺(間質性肺炎・肺胞出血)、神経、頭頸部、皮膚、の単一臓器に病変を認める。他臓器・筋骨格系の症状は伴わない。発熱・倦怠感などの臓器非特異的症状はあってもよい。
白矢印():AAV の診断および評価を示す。
実線():AAV に対する治療が有効であった場合、および薬剤減量が成功した場合を示す。
点線():各ステージにおける治療が無効、効果不十分、あるいは副作用により治療継続困難となり、再寛解導入治療が必要となる場合、または薬剤減量途中や中止後にAAV が再燃し再寛解導入治療が必要となる場合を示す。
2-2. クリニカルクエスチョンと推奨
診療の現場において意見が分かれる、あるいは判断に迷う点を疑問文であらわしたものがCQ であり、CQ に対する回答が推奨です。AAV の患者さん、AAV の診療にかかわる医師、一般内科医、CPG 専門家からなるパネル会議が開かれ、パネリストは「エビデンスの質(確実性)」「利益と害のバランス」「価値観と優先度」「資源とコスト」の四つの要因を総合的に検討し、推奨を作成しました。推奨の詳しい作成過程は、Part 1 V「推奨」(p15)を、その読み方については、「推奨と解説の読み方」(p xvi)を参照してください。
推奨を読み解くポイントです
「推奨する」と「提案する」の違いは?
推奨の強さの違いです。「推奨する」は強い推奨で、「提案する」は弱い推奨です。イメージとしては、典型的なケースにおいて、「推奨する」とは「90% 以上の人は行うであろう内容」であり、「推奨する」を「~をおすすめします」といいかえるとイメージしやすいでしょう。一方、「提案する」は「60~90% の人は行うであろう内容」であり、「提案する」を「~をしてもよいでしょう」といいかえるとイメージいただけると思います。
なお、推奨あるいは提案された治療であっても、必ずしも個々の患者さんの状況にあてはまるとはかぎりません〔クイックリファレンス「使用上の注意」(p viii)参照〕。
「エビデンスの質(確実性)」とは?
患者さんにとって重要な治療指標〔死亡は減少したか(死亡)、病気が十分におさまったか(寛解)、入院を要するような重症な合併症がみられたか(重篤合併症発現)など〕に関する研究結果をまとめた内容の質および確実性のことです。複数の要因をもとに判定し、「高」、「中」、「低」、「非常に低」の4 段階に分けます。真の効果とエビデンスから推定した効果の大きさが同程度かどうかについての確実性を意味し、確実性が高いほど両者が同程度と確信されます。逆に確実性が低いと真の効果とエビデンスから推定した効果の大きさ(効果推定値)が異なる可能性が高いと考えられます。
「推奨の強さ」と「エビデンスの確実性」の関係は?
推奨の強さは前述した四つの要因で決まります。「エビデンスの確実性」は推奨の強さを決める一つの要因ですが、エビデンスの確実性のみで推奨の強さが決まるわけではありません。しかし、エビデンスの確実性が非常に低い場合には、一般的に弱い推奨にすることが提唱されています。
保険適用外とは?
日本の健康保険では認められていない治療のことです。保険診療では使用できないため、一般には奨励されません。
CQ と推奨一覧
CQ1ANCA 関連血管炎の寛解導入治療では、どのようなレジメンが有用か?
推奨 | 推奨の強さ | エビデンスの確実性 | |
1 | ANCA 関連血管炎の寛解導入治療では、グルココルチコイド単独よりも、グルココルチコイド+静注シクロホスファミドパルスまたは経口シクロホスファミドを提案する。 | 弱い | 非常に低 |
ANCA 関連血管炎の寛解導入治療では、グルココルチコイド+経口シクロホスファミドよりも、グルココルチコイド+静注シクロホスファミドパルスを提案する。 | 弱い | 非常に低 | |
静注シクロホスファミドパルスの代替として経口シクロホスファミドを用いてもよい。 | |||
2 | ANCA 関連血管炎の寛解導入治療では、グルココルチコイド+リツキシマブよりも、グルココルチコイド+シクロホスファミドを提案する。 | 弱い | 非常に低 #1 / 低 #2 |
ANCA 関連血管炎の治療に対して十分な知識・経験をもつ医師のもとで、リツキシマブの使用が適切と判断される症例においては、グルココルチコイド+シクロホスファミドの代替として、グルココルチコイド+リツキシマブを用いてもよい。 | |||
3 | シクロホスファミド、リツキシマブともに使用できない場合で、重症臓器病変がなく腎機能障害の軽微なANCA 関連血管炎患者の寛解導入治療では、グルココルチコイド+メトトレキサート*を提案する。 | 弱い | 非常に低 |
4 | シクロホスファミド、リツキシマブともに使用できない場合で 上記推奨③に該当しない場合には、グルココルチコイド+ミコフェノール酸モフェチル*を提案する。 | 弱い | 非常に低 |
寛解導入治療:病気になって最初の数か月で行う症状を軽減・消失させるための治療
#1:静注シクロホスファミドパルスとの比較
#2:経口シクロホスファミドとの比較
*: 保険適用外。クイックリファレンス「2.診療ガイドラインの使い方」(p viii)およびPart 1 I「4.使用上の注意」(p 3)参照。
本推奨文でのANCA 関連血管炎は、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症を意味する。
2)RPGN を含む重症な腎障害例は腎臓専門医に相談することが望ましい。
3)各薬剤を安全に使用するために、添付文書、Part 2 VIII 「治療」(p 112)参照。
CQ2重症な腎障害を伴うANCA 関連血管炎の寛解導入治療で血漿交換は有用か?
推奨 | 推奨の強さ | エビデンスの確実性 | |
1 | 重症な腎障害を伴うANCA 関連血管炎の寛解導入治療では、グ ルココルチコイド+経口シクロホスファミド+グルココルチコイド大量静注療法よりも、グルココルチコイド+経口シクロホ スファミド+血漿交換*を提案する。 | 弱い | 非常に低 |
重症な腎障害を伴うANCA 関連血管炎の寛解導入治療では、グルココルチコイド+経口シクロホスファミドよりも、グルココ ルチコイド+経口シクロホスファミド+血漿交換*を提案する。 | 弱い | 非常に低 |
寛解導入治療:病気になって最初の数か月で行う、症状を軽減・消失させるための治療。
血漿交換:血液の液体成分をいれかえる治療
*: 保険適用外。クイックリファレンス「2.診療ガイドラインの使い方」(p viii)およびPart 1 I「4.使用上の注意」(p 3)参照。
本推奨文でのANCA 関連血管炎は、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症を意味する。
2)血漿交換の十分な経験がある医師のもとで治療すること。
3)RPGN を含む重症な腎障害例は腎臓専門医に相談することが望ましい。
4)各薬剤を安全に使用するために、添付文書、Part 2 VIII 「治療」(p 112)参照。
CQ3ANCA 関連血管炎の寛解維持治療では、どのようなレジメンが有用か?
推奨 | 推奨の強さ | エビデンスの確実性 | |
1 | ANCA 関連血管炎の寛解維持治療では、グルココルチコイドに 加え、アザチオプリンを併用することを提案する。 | 弱い | 非常に低 |
寛解維持治療に用いる他の薬剤として、リツキシマブ、メトトレキサート*、ミコフェノール酸モフェチル*が選 択肢となりうる。 |
寛解維持治療:症状がなくなった後に病気が再燃しないために行う治療
*: 保険適用外。クイックリファレンス「2.診療ガイドラインの使い方」(p viii)およびPart 1 I 「4.使用上の注意」(p 3)参照。
本推奨文でのANCA 関連血管炎は、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症を意味する。
2)各薬剤を安全に使用するために、添付文書、Part 2 VIII 「治療」(p 112)参照。
薬剤名一覧
一般名 | 商品名 |
グルココルチコイド(GC) | プレドニン®、プレドニゾロン®、メドロール® など |
静注シクロホスファミドパルス(IVCY) | 注射用エンドキサン® |
経口シクロホスファミド(POCY) | エンドキサン® 錠 |
リツキシマブ(RTX) | リツキサン® |
メトトレキサート(MTX) | メソトレキセート®、リウマトレックス® など |
ミコフェノール酸モフェチル(MMF) | セルセプト® |
アザチオプリン(AZA) | アザニン®、イムラン® |
2-3. AAV の治療レジメンの選択
以上をまとめると、AAV の治療レジメンの選択は、図3のようにあらわすことができます。実際の診療では、この診療ガイドラインをふまえて、個々の患者さんにおける最終的な判断は、主治医と患者さんが協働で行います。