クリオグロプリン血症性血管炎

1. 疾患概念

クリオグロブリンとは、37℃以下で凝集しそれ以上の温度で溶解する性質をもつ免疫グロブリンのことである(図1)。クリオグロブリン血症性血管炎は、クリオグロブリンによる塞栓症およびクリオグロブリンが血管壁に沈着して補体が活性化されることにより生じる免疫複合体性血管炎を主徴とする1)。C型肝炎(HCV)患者ではクリオグロブリン陽性率が高い。

 

2. 疫学

発症は10万に1人程度である。50~60歳代に好発し、男女比は女性にやや多い。C型肝炎や膠原病に合併する症例が多い。

 

3. 病態

クリオグロブリンは、そのクローン性により区別される。I型はモノクローナル免疫グロブリンで、多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症で認められる。II型はモノクローナルIgM(通常はリウマトイド因子活性を有する)とポリクローナルIgGの混合型で、HCV2)や全身性エリテマトーデス3)、シェーグレン症候群4)などの膠原病に多い。III型はポリクローナルの免疫グロブリンから構成され、膠原病や各種ウイルス、細菌感染症で認められる。明らかな原因を認めない本態性のものも存在する。病変にはこれらのクリオグロブリンを含む免疫複合体の沈着を見る。

 

4. 症状

発熱、全身倦怠感などの全身症状、レイノー現象、紫斑・網状皮斑・皮膚潰瘍などの皮膚症状(下腿に好発し、寒冷暴露で増悪)、関節痛、血栓症および血管炎による末梢性神経障害、腹痛・下血・消化管潰瘍などの消化器症状を認める。また時にネフローゼ症候群や急性腎不全を呈する腎障害を認める。

 

5. 検査

血清中のクリオグロブリンの存在が重要である。C4の低下を認めるのが特徴的である。赤沈値の亢進やCRP上昇も認めることが多い。皮膚組織では、小血管の白血球破砕性血管炎であり、腎組織は膜性増殖性糸球体性腎炎である。蛍光抗体法で、C3やIgG, IgMの沈着を認める。

 

6. 診断

過敏性血管炎、蕁麻疹様血管炎、ANCA関連血管炎、皮膚型結節性多発動脈炎、IgA血管炎などを鑑別し、血清中クリオグロブリン所見と併せて診断する。膠原病やC型肝炎の合併には十分注意する。

 

7. 治療5)

クリオグロブリン血症の原因となる膠原病HCV感染などがあれば、その治療が最優先される。重症の皮膚症状、腎炎を伴う患者にグルココルチコイド(GC)を投与する。GCの効果不十分で重症症例にはGCに加えてシクロホスファミドや血漿交換が検討される。HBV・HCV・HIV 感染のない重症の皮膚症状、腎炎を伴う患者に対して、GC単独投与よりもGC+リツキシマブ(RTX)が考慮されるが、本邦ではRTXはクリオグロブリン血症性血管炎に対して保険適用外である。

 

8. 予後

罹患臓器や原因疾患により左右されるが、10年生存率は70%以上と報告されている。

 

参考文献

  1. 川上貴久.免疫複合体性血管炎 クリオグロブリン血症性血管炎.日本リウマチ財団 教育研修委員会、一般社団法人 日本リウマチ学会 生涯教育委員会 編.リウマチ病学テキスト 改訂第3版.p284-285, 2022.南江堂, 東京.
  2. Ramos-Casals M, et al. Systemic autoimmune diseases in patients with hepatitis C virus infection: characterization of 1020 cases (The HISPAMEC Registry). J Rheumatol 2009;36:1442-1448.
  3. García-Carrasco M, et al. Cryoglobulinemia in systemic lupus erythematosus: prevalence and clinical characteristics in a series of 122 patients. Semin Arthritis Rheum 2001;30:366-373.
  4. Ramos-Casals M, et al. Cryoglobulinemia in primary Sjögren’s syndrome: prevalence and clinical characteristics in a series of 115 patients. Semin Arthritis Rheum 1998;28:200-205.
  5. 川上民裕ら.皮膚血管炎・血管障害診療ガイドライン2023 ―IgA血管炎,クリオグロブリン血症性血管炎,結節性多発動脈炎,リベド様血管症の治療の手引き2023―. 日皮会誌. 2023; 133(9), 2079-2134.

 

図1. 冷蔵庫内(4℃)保存により患者血清内で凝集したクリオグロブリン

(和歌山県立医科大学 藤井 隆夫 医師提供)

 

図2. 皮膚血管炎・血管障害診療ガイドライン2023. クリオグロブリン血症性血管炎の治療レジメンの選択5)

画像クリックで拡大できます。

GC: グルココルチコイド、CY: シクロフォスファミド、RTX: リツキシマブ、PE: 血漿交換
皮膚症状の重症は,広範囲に及ぶ皮膚症状,血疱や皮膚潰瘍を形成する皮膚症状,繰り返し発症する皮膚症状,関節痛・筋肉痛・末梢神経症状を伴う皮膚症状を示す.
腎炎の重症は,ネフローゼ症候群,持続する高度蛋白尿,急速進行性糸球体腎炎などを示す.
皮膚・腎以外の臓器障害については,システマティックレビューで結果を得られなかった.

  • 白矢印(⇨)は,診断・臓器障害・病態評価が確定した場合および寛解導入治療が有効であった場合を示す
  • 実線矢印(→),太い実線四角(□)は,推奨文で提案した治療法またはその代替治療を示す
  • 点線矢印( )・点線四角( )は,その他の治療法を示す
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