1. 疾患概念
2012年に改訂されたChapel Hill分類1)では、小血管(毛細血管、細小動・静脈)を主体とした壊死性血管炎のうち血管壁への免疫複合体沈着がほとんどなく(pauci-immune型)、自己抗体である抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)の陽性率が高い一群をANCA関連血管炎と定義している。さらに、ANCA関連血管炎の中でも肉芽腫性病変のみられないものを顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis: MPA)と定義している。多くの場合、陽性となるANCAは好中球細胞質の酵素タンパク質であるミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase:MPO)に対するANCA(MPO-ANCA)である。
2. 疫学
難治性血管炎に関する調査研究班の新規発症患者コホートでは、男女比はほぼ1:1で、発症時の年齢は中央値73才と高齢者に多い疾患である。本邦の年間発症率は宮崎県で行われたpopulation based studyで百万人あたり18人2)、ドイツでは百万人あたり3人、英国では百万人あたり6人と報告されており、欧米と比べて高くなっている。本邦での受給者数は11899人である(令和5年)。
3. 病態生理
原因は不明である。日本人集団では、HLA-DRB1*09:01がリスクアリルとする報告がある3)。自己抗体であるMPO-ANCAが高率に検出されることから、背景に自己免疫異常が存在すると考えられる。ANCAは動物モデルで血管炎を惹起する病原性を持った自己抗体であることが確認されており、ヒトでもANCAの値と疾患活動性の相関が知られている。過去の研究班コホートでは、78名中97.4%がMPO-ANCA陽性、2.6%がPR3-ANCA陽性、1.3%がANCA陰性であった。近年では、好中球細胞死の形態である好中球細胞外トラップ(NETs)の制御異常や補体第2経路の異常がANCA関連血管炎の病態形成に関与することが報告されている。
4. 症状
発熱、体重減少、易疲労感、筋痛、関節痛などの全身症状(約70%)とともに、組織の出血や虚血・梗塞による症候が出現する。腎臓では壊死性糸球体腎炎が最も高頻度であり(80〜90%)、尿潜血、赤血球円柱と尿蛋白が出現し、血清クレアチニンが上昇する。数週間から数ヶ月で急速に末期腎不全に移行する可能性があり、早期診断、早期治療が極めて重要である。その他、頻度が高い臓器症状は、呼吸器症状(間質性肺炎:約50%、肺胞出血:約10%)、皮膚症状(紫斑、皮膚潰瘍、網状皮斑、皮下結節など:10〜20%)、神経症状(多発性単神経炎など:30〜40%)、耳鼻科領域の症状(約20%)などである。間質性肺炎や肺胞出血を併発すると咳、労作時の息切れ、頻呼吸、血痰、喀血、低酸素血症を生じる。心症状や消化管病変は比較的稀だが、生命予後に大きく影響する可能性がある。
5. 検査
診断には組織生検が重要であり、腎臓など生検可能な臓器における早期の病理診断が重要である。毛細血管や細動脈・細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤を認め、血管壁への免疫複合体の沈着はないか乏しい。肉芽腫性病変はみられない。MPO-ANCAは診断および疾患活動性評価の補助となる検査である。しかし、ANCA陰性での再燃や無症状でのANCA持続高値なども時に認めるため、ANCAの値の推移のみを指標として治療を行うことは推奨されていない。
6. 診断
表1に示す診断基準により、確実(definite)、疑い(probable)と判定する。なお、本疾患は厚生労働省の指定難病に指定されており、難病情報センターに記載がある(http://www.nanbyou.or.jp/entry/86)。
7. 治療
- ANCA関連血管炎の診療ガイドライン(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業、2023年)を参考にする。
- 可能であれば組織生検により血管炎を証明し、可及的早期に確定診断し、迅速に寛解導入療法を開始することが長期的予後を改善する上で重要である。
- 寛解導入療法により一旦寛解導入されたら(治療開始から6ヶ月が目安)、再燃抑制を目的に長期の維持療法を行う(2年〜4年)。
- 最重症の糸球体腎炎症例には血漿交換療法を併用する。
- 再燃時には寛解導入療法に準じて治療を行う。
- 細菌感染症・日和見感染症対策を十分に行う。
1) 治療指針
① 寛解導入療法
疾患活動性評価、治療強度の選択には、専門的知識と経験が必要であり、顕微鏡的多発血管炎あるいはANCA関連血管炎を疑われた場合には、まず専門医を受診することが最も重要である。
寛解導入療法の第一選択はグルココルチコイド(副腎皮質ステロイド+リツキシマブもしくはシクロホスファミドの併用療法が推奨されている。ステロイドの投与量は、従来の大量投与よりもPEXIVAS試験4)(プレドニン換算60mg/日で開始し、15週で5mg/日まで減量)やLoVAS試験5)(プレドニン換算0.5mg/kg/日で開始し、5ヶ月で投与終了)で用いられた減量レジメンが推奨されている。あるいは、リツキシマブもしくはシクロホスファミドに加えアバコパンを用いることで、グルココルチコイドの投与量を抑えてもよい。
ステロイドパルス療法は重症の血管炎、特に急速進行性糸球体腎炎(RPGN)を呈した際にしばしば用いられる。最重症の腎障害(≧Cr5.6mg/dl)を認める場合は血漿交換療法を追加併用する。リツキシマブ、シクロホスファミドともに使用できない場合はメトトレキサート(保険適応外)およびミコフェノール酸モフェチルが代わりの選択肢となる。
② 寛解維持療法
寛解達成後にそれを維持することがAAV患者の長期予後改善につながる。寛解維持療法の第一選択薬はリツキシマブ(500mg/半年毎などいくつかのレジメンが存在する)であり、これを2〜4年継続する。患者の症状やANCAの値に応じて、少量のグルココルチコイドが併用される場合もある。リツキシマブが使用できない場合は、アザチオプリン、メトトレキサート(保険適応外)、ミコフェノール酸モフェチルが代わりの選択肢となる。
2) 合併症の予防と治療
感染症の予防、グルココルチコイドの副作用の評価と対応が特に重要である。強力な免疫抑制治療中は、ニューモシスチス肺炎に対する予防投与を行う。体重管理、糖尿病、高脂血症、高血圧、骨粗鬆症、白内障、緑内障等のフォローを確実に行い、新型コロナワクチン、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチンは可能な限り接種する。規則正しい食事、適切なカロリー摂取、カルシウム摂取を指導する。
8. 予後
適切な治療が行われないと生命予後が不良となる。出来るだけ早期に診断し、適切な寛解導入療法を行えば、寛解導入割合は80〜90%とされる。治療開始の遅れ、あるいは初期治療への反応性不良により、呼吸不全や末梢神経障害など臓器の機能障害が残存する場合がある。腎不全を呈する患者では透析療法が必要となる。また、再燃することがあるので、定期的に専門医の診察を受ける必要がある。現在の標準的な維持療法であるリツキシマブの維持療法を行った場合は、再燃割合は2年で10%程度とされる。
参考文献
- Jennette JC, Falk RJ, Bacon PA, et al. 2012 revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitides. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.
- Fujimoto S, Watts RA, Kobayashi S, et al. Comparison of the epidemiology of anti-neutrophil cytoplasmic antibody-associated vasculitis between Japan and the U.K. Rheumatology (Oxford) 2011;50:1916
- Tsuchiya N, Kobayashi S, Kawasaki A, et al. Genetic background of Japanese patients with antineutrophil cytoplasmic antibody-associated vasculitis: association of HLA-DRB1*0901 with microscopic polyangiitis. J Rheumatol. 2003 Jul;30(7):1534-40.
- Walsh M, Merkel PA, Peh CA, et al. Plasma Exchange and Glucocorticoids in Severe ANCA-Associated Vasculitis. N Engl J Med. 2020 Feb 13;382(7):622-631.
- Furuta S, Nakagomi D, Kobayashi Y, et al. Effect of Reduced-Dose vs High-Dose Glucocorticoids Added to Rituximab on Remission Induction in ANCA-Associated Vasculitis: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021 Jun 1;325(21):2178-2187.
表1.顕微鏡的多発血管炎 診断基準
【主要項目】
(1)主要症候
① 急速進行性糸球体腎炎
② 肺出血又は間質性肺炎
③ 腎・肺以外の臓器症状:紫斑,皮下出血,消化管出血,多発性単神経炎など
(2)主要組織所見
細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死,血管周囲の炎症性細胞浸潤
(3)主要検査所見
① MPO-ANCA 陽性
② CRP 陽性
③ 蛋白尿・血尿,BUN,血清クレアチニン値の上昇
④ 胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血),間質性肺炎
(4)判定
① 確実(definite)
- 主要症候の2項目以上を満たし,かつ組織所見が陽性の例
- 主要症候の①及び②を含め2項目以上を満たし,MPO-ANCAが陽性の例
② 疑い(probable)
- 主要症候の3項目を満たす例
- 主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例
(5)鑑別診断
① 結節性多発動脈炎
② 多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)
③ 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/チャーグ・ストラウス症候群)
④ 膠原病(全身性エリテマトーデス,関節リウマチなど)
⑤ IgA血管炎(旧称:ヘノッホ・シェーライン紫斑病)
⑥ 抗糸球体基底膜腎炎(旧称:グッドパスチャー症候群)
【参考事項】
- 主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。
- 主要症候①,②は約半数例で同時に,その他の例ではいずれか一方が先行する。
- 多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と平行して変動する。
- 治療を早期に中止すると,再発する例がある。
- 除外項目の諸疾患は、特徴的な症候と検査所見・病理組織所見から鑑別できる。
重症度分類
顕微鏡的多発血管炎による以下のいずれかの臓器障害を有する場合を重症(難病の医療費助成の対象)とする。
臓器 | 障害の内容 |
---|---|
腎臓 | ①又は②を満たす場合 ①CKD重症度分類ヒートマップの赤色に該当*1 ②いずれの腎機能であっても尿蛋白 0.5g/日以上又は 0.5g/gCr 以上 |
肺 | 特発性間質性肺炎の重症度分類でIII度以上に該当*2、または肺胞出血 |
心臓 | NYHA2度以上の心不全徴候*3 |
眼 | 良好な方の眼の矯正視力が0.3未満 |
耳 | 両耳の聴力レベルが70デシベル以上か、一側耳の聴力が90デシベル以上かつ他側耳の聴力レベルが50デシベル以上の聴力障害 |
平衡機能の著しい障害または極めて著しい障害*4 | |
腸管 | 腸管梗塞、消化管出血 |
皮膚・軟部組織 | 四肢の梗塞・潰瘍・壊疽、またはそれらによる四肢の欠損・切断(部位は問わない) |
神経 | 脳血管障害により、modified Rankin Scaleで3以上*5 |
末梢神経障害により、徒手筋力テストで筋力3以下*6 | |
末梢神経障害による2肢以上の知覚異常 | |
肥厚性硬膜炎 |
*1 慢性腎臓病重症度分類
画像クリックで拡大できます。
*2 特発性間質性肺炎の重症度分類
重症度分類 | 安静時動脈血酸素分圧 | 6分間歩行時 最低SpO2 |
---|---|---|
I | 80Torr以上 | 90 %未満の場合はIIIにする |
II | 70Torr以上 80Torr未満 | 90 %未満の場合はIIIにする |
III | 60Torr以上 70Torr未満 | 90 %未満の場合はIVにする (危険な場合は測定不要) |
IV | 60Torr未満 | 測定不要 |
上記分類でII度以上を重症とする。
*4 身体障害認定の平衡機能障害
ア 「平衡機能の極めて著しい障害」(3級)とは、四肢体幹に器質的異常がなく、他覚的に平衡機能障害を認め、閉眼にて起立不能、又は開眼で直線を歩行中 10m以内に転倒若しくは著しくよろめいて歩行を中断せざるを得ないものをいう。
イ 「平衡機能の著しい障害」(5級)とは、閉眼で直線を歩行中 10m以内に転倒又は著しくよろめいて歩行を中断せざるを得ないものをいう。
ウ 平衡機能障害の具体的な例は次のとおりである。
- 末梢迷路性平衡失調
- 後迷路性及び小脳性平衡失調
- 外傷又は薬物による平衡失調
- 中枢性平衡失調
上記分類で、「平衡機能の著しい障害」、「平衡機能の極めて著しい障害」相当の障害を重症とする。
*5 modified Rankin Scale
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上記スケールで3以上を重症とする。
*6 徒手筋力テスト
0 | 筋肉の収縮が観察できない |
---|---|
1 | 筋肉の収縮は観察できるが関節運動ができない |
2 | 運動可能であるが重力に抗した動きはできない |
3 | 重力に抗した運動が可能だが極めて弱い |
4 | 3と5の中間。重力に抗した運動が可能で中等度の筋力低下 |
5 | 正常筋力 |
上記スケールで3以下を重症とする。